ITマーケティング研究所

【戦経セミナー】行動する経営者のためのマーケティング基礎講座<第4回>

ビジネスの機会を見つけ自社の強みを顧客視点で再定義しただけで、すぐに売上見込みが立てられるわけではない。なぜならば、「◯◯を自社のビジネス機会とする」という程度ではあまりに漠然としていて、どのような価値を顧客に感じてもらい、その価値をどのように実現すべきか...というコンセプトが絞り込めていないからである。

市場細分化で絞り込む

セグメント(市場細分化)することの効能はたくさんある。まずは顧客にリーチするための効率、すなわち営業効率が良くなる。営業マンに必要な知識も絞り込めるし、営業ツールも絞り込むことが出来る。さらに、製品やサービスの開発効率も良くなる。顧客ニーズを絞り込めるため、機能要件に関する議論が分散しづらい。

ターゲット市場の絞り込み方によっては競争優位性を確保することも出来る。セグメントの仕方を工夫することで、競合過多の状態から全く競合がいない(または非常に競争力がある)状態を創ることが可能だ。たとえば「サーカス」と言えば、しつけられた動物の妙技や超人的なアクションを見て、「驚き」を楽しむものだった。どちらかと言うと安っぽいテントで、音響や空調、座席の状態が悪くても気にならなかった。サーカスとはそういうモノだったからだ。しかし「シルク・ドゥ・ソレイユ」は、それまであった花形パフォーマーという存在や動物ショーを無くし、テーマ性と快適な観賞環境、芸術性の高い音楽やダンスを加えた。顧客から見るとオペラやミュージカルと同じ分野に属することとなり、その中でユニークなポジションを獲得することに成功した。

セグメント項目の具体例

前述の通り、市場セグメントの仕方を工夫することは大きな儲けの源泉となる。ここでは基本的なセグメント項目を述べるにとどめるが、以下にこだわらずに読者自身でいろいろと工夫してみてほしい。まず、市場を個人市場と法人市場に分ける。個人市場は以下の項目の中からいくつかを選んで組み合わせてみる。


地理(地方や都道府県、市町村など)/人口規模(人口◯◯万人以上か以下か)/人口密度(都市、郊外など)/気候(梅雨の有無、台風の多い少ないなど)/年齢/世帯規模/家族構成(若い単身、既婚で子供なし、三世帯など)/性別/所得/職業/教育水準(高卒、大卒など)/宗教/人種および国籍/世代(団塊、団塊ジュニア、デジタルネイティブなど)/社会階層(中流、上流など)/ライフスタイル(文化志向、スポーツ志向、アウトドア志向など)/パーソナリティ(神経質、社交的など)/ベネフィット(品質、サービス、経済性、迅速性など)/ユーザーの状態(非ユーザー、元ユーザー、潜在ユーザー、初回ユーザー、レギュラーユーザーなど)/使用割合/ロイヤリティ。


法人市場については、以下の項目の中からいくつかを選んで組み合わせてみる。

業種(小売業、卸売業、建築業など)/規模(年商、従業員数、店舗数、顧客数など)/所在地/テクノロジー(ターゲット企業の持つどのようなテクノロジーに焦点を当てるか)/ユーザーの状態(非ユーザー、元ユーザー、潜在ユーザー、初回ユーザー、レギュラーユーザーなど)/能力(多くのサービスを必要とする企業、ほとんどサービスを必要としない企業のどちら?)/購買部門の有無(購買意思決定が集権化しているか、分権化しているか)/社内の権力構造(実権を握っているのは営業部か、技術部か、財務部か?)/現在のリレーションシップ(現在強いリレーションシップを確立できている企業をターゲットとするか、最も望ましい企業をターゲットとするか?)/購買方針の嗜好性(リースを好む、サービス契約を好む、システム購買を好む、入札を好むなど)/購買基準(品質、サービス、価格など)/緊急性(突然の注文に対応することを望む企業をターゲットとするか否か)/用途の限定(自社製品の用途を限定するか否か)/注文規模(大口、小口)/買い手と売り手の類似性(価値観が自社および従業員と似ている企業をターゲットとするか拘らないか)/リスクに対する態度(リスクを受け入れるか、避けようとするか)/ロイヤリティ(供給業者に高いロイヤリティを示す企業をターゲットにするか、こだわらないか)


以上は基本的なセグメント項目ではあるが、具体的に検討してみると多様な市場を理解することにつながる。是非とも一度考察してみて頂きたい。

市場評価のポイント

次に、セグメントした市場を評価する方法について述べたい。評価のポイントは、市場の規模/市場の成長性/競争度合いおよび競争優位性/市場アクセス、の四つである。


市場の規模は、客数×客単価とか数量×単価という数式で表す。たとえば国内全体の大学マーケットは、一八歳人口×四年間の学費=一三〇万人×四〇〇万円=五・二兆円という感じだ。市場の成長性は、人口動態やGDPの変化、ライフスタイルの変化などのトレンドを勘案せねばならない。一人あたりGDPが伸びている国ならば、概ねどんな商売も市場規模は拡大する。しかし日本という成熟市場では、どこかが伸びればどこかがヘコむことになる。


市場セグメントを考えるとき、中小企業が最も注力すべきは競争度合いおよび競争優位性の評価である。前述の通り、セグメントの仕方を工夫することで競争度合いの低い市場セグメントを創り出すことが可能だ。伸びている企業のほとんどはユニークな市場セグメントを創り出している。ファーストリテイリング(ユニクロ)は、カジュアルウエアの小売チェーンからベーシックウエアのSPA(製造小売)というセグメントに定義し直したと考えられる。

最後に市場アクセスだが、顧客にリーチする(顧客接点を持つ)には大きなコストがかかるため慎重な評価が必要だ。そもそもターゲットとする市場セグメント(顧客ターゲット)を特定できるのか。リーチする方法はすでに確立されているのか、新たに確立せねばならないのか、なども検討する。日本のように情報インフラも物流インフラも成熟した市場においてはリーチ効率の評価だけで良いが、インフラが貧弱な海外の場合は、リーチ出来るか出来ないか...にも注意が必要だ。

集中すべき市場を選択せよ

「戦略」とは、目標を達成するための複数の方法論(戦略オプション)のうち、何に自社のリソース(人材や資金)を集中するのかを言う。よって、ここまで述べてきたことは市場戦略の策定方法そのものである。

図は、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)で使われるマトリクスだ。PPMでは「プロダクト」をマトリクス上に配置するが、「セグメント」をマトリクス上に配置することで市場戦略の策定にも応用できる。SPM(セグメント・ポートフォリオ・マネジメント)と呼んでも良い。セグメント市場の成長性と市場内相対シェアの二軸で構成されたマトリクスに、選択したセグメントをあてはめ、どのリソースをどこにどの程度配分するかを考えるのである。

たとえば、「金のなる木」には標準的なスタッフ人材を多数投入して資金を稼ぐ。「花形」にはオペレーションに強いマネジメント人材を充て、市場成長規模に見合った資金を投入し、「金のなる木」を目指す。「問題児」には企画力、課題解決力、実行力の高いリーダーシップ人材を充て、自社の資金力に見合った規模の投資をし、「花形」を目指す。

THE STRATEGIC MANAGER 2009.11 36-37